俺の妹がこんなに可愛いわけがない

伏見つかさ
かんざきひろ
電撃文庫

一般の小説が一部の読書家向けになっていく過程で若者が切り捨てられていて、そこに目をつけて要素を絞って読み易さを重視したのがそもそものライトノベルだと思っている。んで、そのライトノベルがまた先鋭化して難解になっていって(といってもイーガン的ではなくおそらくは厨二病的に)いるんじゃないかなーと。
といっても、最近のライトノベルには全然接触がなくて、アニメで間接的にストーリーを知った「涼宮ハルヒの憂鬱」と、途中で読むのやめた「イリヤの空、UFOの夏」(ジャーゴンだらけで文章力もリアリティもないクソ小説)のみでそう思ったんだけど。
ライトノベル難解化の揺り戻し的な平易さがこの「俺の妹がこんなに可愛いわけがない」にはある気がした。
平易になったのは、非常にテーマが絞り込まれているのが原因に思えて、悪く言えば内容が薄いと言えなくもない。
そのテーマに関しては、家族愛(絵で妹萌え寄りの解釈がされかねないが)と寛容あたりだろうか。若々しい青春小説的でよかった。
裏の見返しに「活力に満ちたお話を書く作家でありたいものです」というのは特徴通りな気がした。
絵は凄く良くて、絵だけで売れるんじゃないだろうか。でも中で描かれる妹とはかなり乖離があって、違和感も少し感じつつ読んだ。



で、以下マイナスポイント。
幼馴染と父親はステレオタイプで母親は空気。人物が書けてない。
一人称小説で、主人公は一応キャラクターが立ってると思うが、オタクの作家が必死で一般人を書こうとしているように思えてしまう。感情移入ポイントは後半の熱くなってきたところくらいか。
ストーリー展開が連載小説のように散漫で、たとえば「妹が才色兼備なんだよ」っていうエピソードが後半にいかにも急ごしらえで挿入されていたりするところは非常に気になった。
文章力もあまりぐいぐい読ませる感じではないのでオタクネタを混ぜたライトノベル以外では食ってけないかなーと勝手に想像した。





読み終わってかかった時間を考えてみると、たぶん1時間半くらいかな。
ライトノベルってこんな工数負荷軽いのか。
ふーん。
逆にこれで600円だとお金という意味でコスト負荷が高すぎて中高生には厳しいんじゃないかな。



青春小説では「青が散る」が一番好きだけれども、ライトノベルの読者層には読ませられない(どろどろとした複合テーマが込められていて、かつ昭和の時代背景も理解しにくそう)。かといって小説を読まない人が増えるのはさびしい、ということでライトノベルには頑張ってほしい。

青が散る (文春文庫)

青が散る (文春文庫)