三国志

七巻
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孔明も共にすすめた。
「伊籍のことばに、私も同意します。今こそご決断の時でしょう」
 しかし玄徳は、ただ涙を垂るるのみで、やがてそれにこう答えた。
「いやいや臨終の折に、あのように孤子の将来を案じて、自分に後を託した劉表のことばを思えば、その信頼に背くようなことはできない」
 孔明は、舌打ちして、
「いまにして、荊州も取り給わず遅疑逡巡、曹操の来攻を、拱手してここに見ているおつもりですか」と、ほとんど、玄徳の戦意を疑うばかりな語気で詰問った。
「ぜひもない……」
と、玄徳は独りでそこに考えをきめてしまっているもののように──
「この上は新野を捨てて、樊城へ避けるしかあるまい」と、いった。