高熱隧道

吉村昭

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その頃から技師の大半は、異常な熱さに切端たでたどりつくことができなくなっていた。

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技師たちは、岩盤の奥からきこえてくる鑿岩機の音に不安そうに耳をかたむけている。正しく前方からきこえているかと思うと、思いがけなく横の方からきこえてくることもある。岩盤に走っている多くの節理が物音を屈折させていることを知ってはいるのだが、もしかすると、坑道は、互いに食い違って進でいるのではないかという不安に襲われることもある。
彼らは夜も眠れず、落ち着かなく深夜も切端のあたりに集まってきていた。