つぎの日。
朝に参内することがあって、曹操は関羽を誘い、そのついでに、錦の髯嚢を彼に贈った。
帝は、関羽が、錦のふくろを胸にかけているので、怪しまれて、「それは何か」と、ご下問された。
関羽は嚢を解いて、
「臣の髯があまりに長いので、丞相が嚢を賜うたのでござる」
と、答えた。
人なみすぐれた大丈夫の腹をも過ぎる漆黒の長髯をながめられて、帝は、微笑しながら、
「なるほど、美髯公よ」
と、仰っしゃった。
それ以来、殿上から聞きつたえて、諸人もみな、関羽のことを、
「美髯公。美髯公」
と、呼び慣わした。