クレイドゥ・ザ・スカイ(スカイ・クロラ5巻)

クレィドゥ・ザ・スカイ―Cradle the Sky

クレィドゥ・ザ・スカイ―Cradle the Sky

森博嗣
中公文庫


シリーズ全体を通して、基本的に詩の部分が多い。割と良いけど。



病院を脱走した僕が科学者サガラと一緒に逃げて(この逃げるシーンが8割くらいを占めている)、反戦反政府地下組織へ合流。
なぜか地下組織は散香を持っていて、主人公がそれに乗って追手の航空機を4機撃破するも、地下組織は壊滅。
僕は地上に帰還し、一人立てこもったサガラを殺し、軍へ戻る。


で、主人公が誰なのかは明確ではない。
カンナミかクリタ・ジンロウだろうけれども。


主人公の意識が混濁している上に一人称小説なので地の文にも嘘を書き放題。
ミステリ作家(笑)の好きそうなシチュエーションだよね。


最初ちょっとフーコと一緒なんだけど、なんかフーコのキャラクターが違うなぁと感じる。


P108-110

 受話器を手に取り、コインをポケットから出そうとしたとき、背後でボックスのドアが開いて、僕はガラスのドアに押しやられた。最初は、フーコが僕を驚かそうとしたのだ、と思った。
 でも、すぐにそうでないことがわかる。
 僕の躰に抱きつくようにしているのは、彼女ではない。
 もっと華奢な、そして軽そうな体格。背格好も僕と同じ。
 狭い場所で、僕は躰を捻って、向きを変える。
 目の前の顔を見た。
「クサナギ」僕はその名を思い出した。
 ガラスは曇っている。雨の滴が動いていた。
 僕は自分の胸を見た。そこが痛かったからだ。固いものが押しつけられている。クサナギの手が白い。その血管も見えた。
 拳銃。
 しかし、僕はもう驚かない。
 ああ、そうか、
 そうだったな、と思った。
 少し安心したかもしれない。
 たぶん……、
 正直に言えば、少し嬉しかっただろう。
「どうして、ここへ?」僕は冷静な口調できくことができた。
「もう充分に生きたな」草薙水素が言った。
 額にかかった髪から、
 滴が頬に落ち、
 それが、小さな顎へ伝わっていく。
 少女の顔だった。
 そう、以前の顔だ。
 僕が知っている顔。
「君が来るとは思わなかった」僕は言った。
「私以外に、君は殺せない」
「誰だって殺せるよ、簡単に」
「悪く思わないで」
「思うはずがない」
 胸にショック。
 僕の背中が、ガラスの壁にぶつかった。
 割れたかもしれない。
 火薬の臭い。
 ああ……、素敵な香りだ。
「ありがとう」僕は言った。
「さようなら」草薙が言う。

地の文に出てくる人名が一部カタカナ表記。
素敵な香りに対しては臭いじゃなくて匂いじゃないだろうか。
というところが気になった。良いシーン。



P122

「どんな夢を見た?」
「殺される夢。クサナギが追ってきて、僕の胸に」僕は自分の左の心臓に指をつける。「銃を突きつけて、撃った」
「そう……」彼女は少し深刻な表情になった。「それで、どう思った?」
「幸せだと思いました」


P162

「このまえの大きな戦争で、クサナギ大尉が亡くなったと聞かれて、どう思いましたか?」
「いえ、私はそのとき、警察に拘束されていて、その情報を知らずにいました。一ヶ月くらいあとです、聞いたのは」


どの情報が妄想でないか、判断はとてもじゃないが出来ない。
そういう意味では事実をつかめない。


P168

「これは噂なのですが、クリタさんは、病院を抜け出した。そして、ある娼婦と一緒に逃げていたのです。けれど、最後には見つかって、撃たれました」

P169

「クサナギ大尉が撃ちました。噂と言いましたが、嘘です。私は、これを彼女から直接聞いたのです


P268 かっこ良い物言い

「いろいろ縁起をかつぐものだけれど、たいてい、何も関係がない」僕は話した。少し気分が良かったのだろう。「飛行機に乗る日に履く靴の紐の結び方とか、出撃の日にだけ着けるペンダントとか」
「それは、誰のこと?」
「さあ、誰のことだったかな。でも、誰でもそんなルールを持っている。だいたい、例外なくルール通りになるんだけれど、最後に一度だけ、その力が利かないときが来る。利かないのは、たったの一回だけだ」
「そうね」彼女は頷いた。


解説が押井守なんですが、非常になんていうか、変態でお宅です。
共感できる。


http://www.nicovideo.jp/watch/sm4262247
スカイ・クロラ押井守監督コメント@横国


あれ、違うな。
「生きているのはつらいことです。若者はそれに耐えない」
「映画を見ている時にだけ、生きていると感じた。キルドレと同じです」
みたいなイメージの説明をしている動画があって、僕はそれに感銘を受けた。
やはり押井守は僕の中ではどこか別格の存在なのだな。