- 作者: 森博嗣
- 出版社/メーカー: 中央公論新社
- 発売日: 2004/06/01
- メディア: 単行本
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中公文庫
タイトルから何作目かわかりにくい。
Wikipediaを参照すると、著者は作品をどれから読んでも良いとおっしゃっている模様。
だがしかし、その言葉は本作ですでに非常に露骨な形で裏切られている。
その状態で、しかも本に何冊目かが書かれていないのはクソだ。
主人公は草薙水素で、ティーチャの基地へ赴任。
草薙がティーチャの子供を産んで、ティーチャは敵軍へ移籍。
草薙は軍によって広告塔としてつかわれるようになる。
P14
やがて、灰色の雲に包まれる。不規則に機体が揺れる。雲の中には、沢山のクッションが浮かんでいて、そいつにときどきぶつかるようだ。誰も見たことはない。僕は計器で傾斜を確かめながら、油圧と燃料も見た。
ここの「誰も見たことはない。」
P16
もちろん、雨が降っているから、キャノピィを開けることはしなかった。滲んだ光が、方々へ光を延ばして、いつもよりも綺麗に見える。これくらい滲ませた方が、地上は綺麗だってこと。
ここの「地上は綺麗だってこと。」
この二つはしょっぱなから特に気持ち悪かった。
P16についてはさらに「滲んだ光が」「光を伸ばして」という部分がとてもプロが書いているとは思えない言葉の重なり方をしている。
他にもこの手の表現の雑さがあって、興醒めすることがあった。
P76〜77で更なる興醒めが待っている。
主人公が僕女で、なおかつ草薙水素だと明かされる。
酷い、クソみたいだ。
直前でわざとらしく男の同僚とあいまいな会話をさせたりして、もう吐き気がするくらい酷い。
さんざんわざとらしいフリをしてみせて、「どうだ!」ってさ。
プロならもっと自然に驚かしてみせろよ。
そこまでの文章の品質がかなり低下しているわけで、そこまでの対価を払って、こんな糞みたいな叙述トリック(笑)要らないだろ。
これだからミステリ作家(「ミステリー」ではなくね)っていうのは俺は好きになれない。
リアリティを捨ててトリックに走り過ぎる。
さらに、これが効果を出すのは前作を読んで来ている人間だけだろう。
そうでなければ、驚くというよりもあきれて醒める部分の方が大きくなりそうだ。
読む順番が逆だと「あぁ、あの僕女ね」という感じだろうし。
良かったシーンは
P102
彼は、ジャンパのファスナをを開けた。何をするつもりか、と思ったら、それを脱ぐ。そして、僕の方へジャンパを投げた。慌てて、それを受け止める。
意味がわからない。首を傾げて彼を見た。
「それを着ろ」笹倉はそう言うと、バイクのハンドルに手をかけて、再びそれに跨った。
「どうして? 大丈夫だよ」僕は笑いながら言った。「そんなに寒くはないって」
笹倉は黙っていて、手首を捻って一度エンジンを吹かした。
「あのさ、こういうのって、僕は好きじゃないな」近づいて、僕は言った。「わかっているだろう? やめてほしい」
笹倉は横目で僕を睨みつける。
「お前はパイロットだ」笹倉は言った。「風邪をひくなら、整備工の方が良いさ。それが安全率ってやつ。単なるエンジニアリングだ」
三秒ほど考えてから、僕は黙ってジャンパに腕を通した。
そして、再び彼の後ろ、バイクのシートに乗る。
かなぁ。
男女間で対等であるということを前提に、建前上双方が納得できる説明がつく限りは対等ではないこともできる、というところが美しい。
媚びる男女関係というのは非常に美しくない。
P279でスカイ・クロラから通して初めてインメルマン・ターンという単語が出てくる。
「インメルマン・ターン」「スプリットS」「シャンデル」「スライスターン」どころか多分、「バレル・ロール」「シザーズ」すら出てなかったんじゃないだろうか?
3巻であるダウンツ・ヘヴンでは結構出てきている気がする。
航空機を操る小説で、描き方は3パターン思い浮かぶ。
1.自分自身の動きを描く
(例)操縦かんを引く。スロットルレバーを押しこむ。
2.結果として出る技(?)を描く。
(例)シザーズからストールに入って後ろを取る。相手はスライスターンで右下方へ離脱する。
3.1と2の間の、飛行機としてどの梶が動いたかを描く。
(例)エルロンを下げると見せてフラップを下げる。次いでエレベータを引いた。
3ばかりなので、読んでて位置関係とか良くわかんない。主人公が飛行機と一体化しているイメージはわかるんだけど。
ストーリーは前作で想像できるものだった。やれやれ。
正直微妙。